対象疾患

トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)との日々の戦い

トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)とは?

アミロイドと呼ばれる異常タンパク質が臓器に沈着することで引き起こされる機能障害がアミロイドーシスであり、障害部位が心臓である場合を特に「心アミロイドーシス」と呼びます1。また、アミロイドには様々な前駆タンパク質があり、「トランスサイレチン(TTR)」はその1つです。TTRを前駆タンパク質とする心アミロイドーシスが、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)です2

ATTR-CMは、非遺伝性の野生型(ATTRwt-CM)と、遺伝性(ATTRv-CM)の2つのサブタイプに分類されます3。ATTRwt-CMは高齢男性に多く、ATTRv-CMは遺伝性であるため、発症年齢は20~70歳代と幅広いとされています2

ATTR-CMは進行性かつ致死性の疾患であり4、本邦におけるATTRwtアミロイドーシス患者の予後の研究で、未治療の場合の生存期間は診断後約3.8年(中央値)であったと報告されました5。また、ATTR-CM患者の経過とQOL(健康状態や生活の質)について行われた調査によると、診断前3年間の入院回数の中央値は3回(IQR:1~5)と報告されています6。心不全患者では入院回数に伴い生存期間が減少すると報告されているため7、心不全を多く合併するATTR-CMにおいても、入院の抑制を目指した治療を、より早期に開始することが求められています。ATTR-CMに対しては、アミロイドの形成や沈着を抑制する疾患特異的な治療が必要とされます8

しかし、ATTR-CMの早期診断・治療には課題が残されています。
ATTR-CMの心臓症状は一般的な心不全と一致するのに対し、心臓以外の症状は特に際立つ症状が無いため4、適切に診断されていない症例が相当数存在すると考えられています。患者も高齢者が多いため、症状の増悪があっても、加齢や診断済みの心疾患が原因と捉えてしまうことがあります。
現実として、疾患認知度の高まりなどからATTR-CMの診断数は近年増加していますが9,10、疫学研究などから推測すると、未診断の患者さんはいまだ相当数いると考えられます。

適切な診断と治療の実現のため、医師、患者さんともに本疾患のさらなる啓発が望まれています。

参考文献:

  1. 厚生労働省. 難治性疾患政策研究班 難病情報センター 全身性アミロイドーシス(指定難病28). https://www.nanbyou.or.jp/entry/45(2025年1月参照)
  2. 日本循環器学会(編). 2020年版心アミロイドーシス診療ガイドライン. p.9-11,19,22-24,65. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2020_Kitaoka.pdf(2025年1月参照)
  3. Kittleson MM, et al. Circulation. 2020; 142(1): e7-e22.
  4. Rozenbaum MH, et al. Cardiol Ther. 2021; 10(1): 141-159.
  5. Ochi Y, et al. Circ Rep. 2020; 2(6): 314-321.
  6. Lane T. et al. Circulation. 2019; 140(1): 16-26.
  7. Setoguchi S, et al. Am Heart J.2007; 154(2): 260-266.
  8. Campbell CM, et al. Am J Ther. 2023; 30(5): e337-e453.
  9. Yamada T, et al. ESC Heart Fail. 2020; 7(5): 2829–2837.
  10. Nativi-Nicolau J, et al. JACC CardioOncol. 2021; 3(4): 537–546.[COI:著者のなかにはEidos Therapeutics, Inc. よりコンサルティング料等を受託している者が含まれる]
  11. Inomata T, et al. ESC Heart Fail. 2021; 8(4): 2647–2659.
  12. Muchtar E, et al. J Intern Med. 2021;289(3):268-292.
  13. Yamamoto H, Yokochi T. ESC Heart Fail. 2019; 6(6): 1128-1139.
  14. Cuddy SAM, Falk RH. Can J Cardiol. 2020;36(3):396-407.
  15. Ichimata S, et al. Amyloid. 2021; 28(2): 125-133.